個人事業主と法人(会社設立)の違いは?メリット・デメリットを比較
事業を運営する上で「個人事業主」「法人」のどちらかを選択するかお悩みの方は多いでしょう。個人事業主と法人では、税金面や手続きの負担、活用できる制度に大きな違いがあるため、事業内容や目的に応じて適切に選択することが重要です。 本記事では、個人事業主と法人の違いを12項目で比較し、それぞれのメリット・デメリットなどの特徴を説明します。法人(会社設立)が向いているケースも紹介しているため、開業しようと考えている方はぜひ参考にしてみてください。
個人事業主と法人(会社設立)の違い
個人事業主と法人(会社設立)にはどのような違いがあるのでしょうか。
以下の表に12項目で比較したそれぞれの特徴をまとめました。
個人事業主 | 法人 | |
---|---|---|
開業手続き | 税務署への開業届の提出のみ | 法務局への設立登記が必要 |
開業にかかる費用 | 0円 | 法定費用+資本金 【法的費用】 株式会社:約25万円 合同会社:約10万円 |
税負担の種類 | 所得税、住民税、個人事業税、消費税 | 法人税、法人住民税、法人事業税、消費税 |
経費の範囲 | 狭い | 広い |
赤字の繰越 | 3年 | 10年 |
決算期 | 12月末 | 自由に設定可能 |
社会保険の加入義務 | なし(従業員5人未満の場合) | あり |
社会的な信用度 | 低い | 高い |
資金調達 | 小規模な資金調達方法に限られる | 大規模な資金調達が可能 |
責任範囲 | 無限 | 有限 |
廃業手続き | 廃業届の提出のみ | 廃業届の提出や公告が必要 |
事業承継のしやすさ | しにくい | しやすい |
以下でそれぞれの内容について解説します。
開業手続き
個人事業主として事業を開始する際は、所轄の税務署に開業届を提出するのみで手続きが完了します。青色申告の承認を受けたい場合には、追加で青色申告承認申請書も提出します。
一方、法人が事業を開始する際には、定款の作成・認証や法務局での設立登記、税務署への法人設立届出書の提出、各都道府県税事務所・市町村役場への届出の提出、社会保険の加入手続きなど、さまざまな手続きを行う必要があります。
開業にかかる費用
個人事業主の開業では、開業届の提出のみで手続きが完了するため、特に費用はかかりません。
一方、法人を設立する場合には、定款の認証や法務局での設立登記の際に手数料や登録免許税などの費用が発生します。株式会社の場合は約25万円程度、合同会社の場合は約10万円程度が必要となることが一般的です。
加えて、資本金も設定する必要があり、資金調達のしやすさや信用度にも関わってくるため、100万円程度を設定するケースが多いです。
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税負担の種類
上の表の通り、個人事業主と法人では課される税の種類が異なります。
個人事業主では、主に所得税を負担することになりますが、所得税は累進課税が適用されており、所得金額に応じて5%〜45%の範囲で課税されます。
一方、法人が主に負担する法人税では、税率は原則として23.3%で一律です。そのため、所得が大きくなればなるほど、個人事業主よりも法人の方が税負担を軽減しやすいのです。
また、住民税の取り扱いに関しても個人事業主と法人では異なります。個人事業主の場合では、赤字であれば住民税を支払う必要がありません。一方、法人では、赤字決算であったとしても、最低7万円程度の法人住民税を納めなければなりません。
さらに、税務申告の難易度も個人事業主と法人では大きく異なります。所得税の確定申告は納税者自身が作成することも難しくありませんが、法人税の申告では、申告書以外に決算書や内訳書といった添付書類の提出も必要となり、書類作成の難易度が高いことから専門家である税理士に依頼することが一般的です。
経費の範囲
個人事業主と法人では経費計上できる範囲に大きな違いがあります。
個人事業主では経費計上できず、法人のみが経費計上可能な費用の例は以下の通りです。
- 自身への役員報酬、賞与、退職金など
- 福利厚生にかかった費用
- 健康診断にかかった費用
- 社会保険料
- 出張手当
法人の方が経費として落とせる費用の範囲がかなり広く、税制上で非常に有利となっています。
ただし、交際費に関しては個人事業主であれば制限がなく、「800万円まで」または「飲食費の50%」のいずれかに上限を設定されている法人(資本金が1億円以下)よりも有利となっています。
赤字の繰越
白色申告の個人事業主は基本的に赤字を繰越することができません。青色申告の承認を受けている場合にも、赤字の繰越は翌年以降3年までとなっています。
一方、法人の場合は10年まで赤字の繰越が可能です。設備投資やM&Aを行う場合にも、大規模な赤字の影響を受けにくくなっています。
決算期
個人事業主の場合、事業年度は1月から12月に固定され、決算期も12月末に限られます。そのため、たとえ年末年始に売上が増加しても、12月31日を締日として利益を確定させる必要があります。
これに対し、法人では、繁忙期や節税対策に合わせて自由に決算日を設定でき、事業年度も柔軟に決められます。繁忙期に決算期を設けることで、業績を良く見せることも可能です。多くの企業が3月末を決算日にしていますが、9月末や他の時期を選択する法人も少なくありません。決算期を自由に設定できることは、法人の大きなメリットの一つです。
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社会保険の加入義務
個人事業主では、従業員が5人未満の場合、社会保険への加入義務がありません。
一方、法人の場合は、自分一人のみの会社であっても社会保険への加入義務が生じます。そのため、従業員を雇えば社会保険料を半額負担しなければならず、手続きの手間も増えるというデメリットが発生します。
しかし、法人には社会保険の加入義務があることで、個人事業主に比べて人材を採用しやすくなるというメリットもあります。
社会的な信用度
一般的に、法人は個人事業主よりも社会的な信頼度が高いとされています。これは、法人が設立時に登記を行い、所在地や資本金、事業内容、役員構成などの重要事項を開示する義務があるためです。
このような透明性の高さから、社会的信用が高まり、取引において有利になることが多いです。法人でなければ取引しないというケースもあるため、法人成りをすることで販路の拡大が期待できるでしょう。
資金調達
法人と個人事業主であれば利用できる資金調達方法や調達できる金額に大きな違いがあります。
個人事業主の資金調達方法としては、金融機関等の融資や補助金・助成金の活用が一般的となります。ただし、個人事業主の場合は、法人よりも社会的な信用度が低いことから、融資の審査に通過する難易度が高く、受けられる融資額も低めとなっています。
一方、法人の場合は、融資や補助金・助成金に加え、株式・社債の発行による大規模な資金調達も可能です。そのため、資金調達の面では法人のほうが非常に有利といえます。
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責任範囲
個人事業主の無限責任となり、事業上の責任はすべて事業主が負わなければなりません。そのため、事業に失敗して借金を背負ってしまった場合、個人の財産を持ち出したり、自己破産してでも、すべての返済処理を行わなければなりません。
一方、法人の責任範囲は有限であり、会社が倒産したとしても出資した範囲に限定して責任を負います。例えば、出資額500万円で会社を設立し、経営者(株主)となった場合、事業に失敗して2,000万円の負債を抱えてしまっても、出資額との差額の1,500万円については責任を負いません。
そのため、法人の場合には、個人の財産が危険にさらされるリスクがないのです。
廃業手続き
事業を廃業する場合、個人事業主は廃業届を提出すればよいだけなので、開業時と同様に簡便に行うことができます。
一方、法人の場合は、税務署や年金事務所などを含めたあらゆる機関に、廃業に関する届出を提出する必要があります。加えて、法務局へ解散に関連する登記申請をしたり、官報で解散に関する公告をする必要があり、廃業手続きに8万円程度の費用が発生します。
事業承継のしやすさ
個人事業主の場合、事業の主体は「個人」として扱われるため、事業主が死亡や引退をした際には、そのまま事業を継続することはできません。そのため、事業承継の際には廃業届を提出し、承継者が新たに開業届を出す必要があります。さらに、事業資産の移転も相続や贈与、売却を通じて個別に手続きを行わなければなりません。
一方、法人は事業の主体が「会社」であるため、事業主が死亡しても事業は存続します。そのため、法人の事業承継は、許認可取得(一部業種を除く)や資産の所有権移転を必要とせず、スムーズに引き継ぐことが可能です。
個人事業主・法人別のメリット・デメリット
個人事業主と法人を12項目で比較した結果、個人事業主・法人それぞれのメリット・デメリットは次の通りに整理できます。
事業形態 | メリット | デメリット |
---|---|---|
個人事業主 |
|
|
法人 |
|
|
事業開始時の事業形態や法人成りを検討している場合には、それぞれの状況に応じて、上記のメリット・デメリットを参考にしながら判断するとよいでしょう。
法人化(法人成り)がおすすめのケース
先述したように、個人事業主と比較して、法人(会社設立)はあらゆる面でメリットがあります。しかし、なかには個人事業主を選択した方が有利なケースもあり、すべての事業者が法人化することでメリットを得られるわけではありません。
一般的に法人化したほうがよいと考えられる代表的なケースは以下の3つです。
- 前年の売上高が1,000万円を超えている
- 法人との取引がメインとなる業種である
- 事業を拡大させたい
まず、前年の売上高が1,000万円を超えている場合、消費税の課税事業者として消費税を納税する義務が生じます。法人の場合は消費税の課税判断基準となる前々年となるため、法人化することで、法人としての売上実績がないことから、消費税の課税事業者に該当せず、最長で2年間は消費税が免除されます。
また、法人との取引がメインとなる業種の場合、信用度の観点から個人事業主であれば取引に応じてもらえない可能性もあるため、法人化したほうがおすすめです。
資金調達や人材の確保の面からも法人の方が有利であることから、事業を拡大させたいと考えている場合にも法人化した方がよいでしょう。
他にも法人化(法人成り)したほうがよいケースは複数あるため、詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
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まとめ
個人事業主と法人にはさまざまな違いがあるため、それぞれの特徴をしっかり把握した上で、自分の事業にあった形態を選択することが大切です。
事業形態を判断する場合には、税金面の負担や資金調達可能な額の違いが判断基準となることが多いですが、それぞれの事業内容・状況に即した具体的な金額を算出することは非常に困難です。
そこで、税務・会計の専門家である税理士に相談すれば、あらゆる面を考慮した上で、個人事業主と法人のどちらを選択すればよいかについて具体的なアドバイスをくれるでしょう。
事業開始後の税務・会計業務についても相談できるため、開業時には税理士に相談することをおすすめします。
【監修者】代官山税理士法人 / 代表 大勝 健司
会計士試験合格後、監査法人に入社。幅広い事業の監査業務に従事。 その後、売上高数千億の一部上場企業(小売業)にて、企業内会計士として経理業務に従事。税理士として、決算書の作成、法人税申告書、相続税の相談から申告実務全般にも携わる。また社会保険労務士として事業会社において各保険の入退社手続き、役員及び従業員向けの退職金制度導入、就業規則の作成等に至るまでの労務を経験。社会保険の知識にも明るい。ヒトとカネの融合的視点からのアドバイスを可能とする。
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