相続した不動産を売却すると節税効果がある?適用できる特例や注意点を徹底解説!
この記事では、相続した不動産を売却したときの節税効果を解説しました。土地や建物を売却するまでの流れやメリット、おすすめの査定方法も紹介しています。特例を使った節税対策や不動産売却時の注意点も解説したので、ぜひ参考にしてください。
相続した不動産を売却するメリット
相続した不動産を売却するか、管理して維持するか、居住するかなど、どのように活用するかは、相続人の状況や不動産の種類、立地などによって異なります。ここでは、相続した不動産を売却することに焦点を当て、そのメリットについて説明していきます。
譲渡所得税を軽減できる
相続した不動産を売却する際には、譲渡所得税が発生します。しかし、相続不動産を譲渡すると、取得費加算の特例や、被相続人の居住用不動産を売却した時の3,000万円の特別控除が適用できるため、通常の不動産の譲渡よりも譲渡所得税の負担を軽減することが可能です。
ただし、相続した不動産を3年以内に売却できないと特例を適用できない可能性があるため、売却を検討する際は早めに不動産会社に相談すると良いでしょう。
遺産分割をしやすくなる
相続資産のほとんどが不動産の場合、土地や建物は物理的に分割して相続することが難しく、相続人同士のトラブルになりやすいですが、不動産を売却して現金化することによって遺産分割がしやすくなります。
不動産の遺産を分割する際の解決方法としては、①共有名義にする、②不動産を売却して得た現金を分割するという方法があります。
共有名義にした場合には、一人が売却を検討している場合でも名義人全員の許諾を得る必要があったり、共有名義人が死亡した際に新たな相続が発生し、さらに名義人が増えてしまうことによって権利関係が複雑になってしまったりするというデメリットが生じます。
相続した不動産を売却して現金化する場合には、譲渡所得税が発生してしまいますが、特別控除や取得費加算の特例の適用でき、税金負担を軽減できる上、現金が得られることによって納税資金を確保できるというメリットも存在します。
そのため、不動産の遺産分割でトラブルが発生しそうな場合には、売却して現金化することを検討しても良いでしょう。
管理の負担が減る
今後、居住予定のない不動産を相続した場合、土地や建物を売却することで管理・維持の負担を減らすことができます。
人が住んでいない家屋は傷みやすく、定期的に草刈りや水回りの点検、換気や清掃をする必要があります。
また、空き家になるとゴミが不法投棄される可能性もあり、近隣住民とのトラブルになる可能性もあります。
不動産を売却することによって、維持費や修繕費などの経済的負担からも解消されるため、利用する予定のない不動産が相続財産の中に含まれている場合には、売却を検討すると良いでしょう。
特定空き家の指定による増税のリスクを軽減できる
相続した不動産を売却することによって、空き家にかかる固定資産税や都市計画税などの税金負担を減らすことができます。
また、空き家の管理が行き届かず、衛生上有害となる恐れがある場合や倒壊などの危険性がある場合には、「特定空き家」に指定され、固定資産税や都市計画税の減額措置の対象外となり、固定資産税は6倍、都市計画税は3倍となってしまいます。
そのため、相続した不動産を利用する予定がない場合には、必要としている人に売却し、税金や管理の負担、増税のリスクを解消すると良いでしょう。
相続した不動産の売却時に適用できる特例
相続した不動産を売却する際には、さまざまな税制上の特例が適用できる場合があります。
以下では、代表的な3つの特例について詳しく説明します。
相続財産の譲渡にかかる取得費加算の特例
相続財産の譲渡にかかる取得費加算の特例とは、相続して取得した土地や建物、株式を被相続人が亡くなった日から3年10ヶ月以内に譲渡した場合に、その譲渡した財産に課された相続税額のうちの一定額を、譲渡所得税を計算する際の取得費に含めることができる制度です。
不動産の相続時に相続税を納め、譲渡時にも所得税がかかることで、二重課税となり納税者にとって大きな負担となってしまうことを防ぐために設けられています。そのため、譲渡する財産に相続税が課されていない場合には、この特例を適用することができません。
取得費に加算できる相続税額は、次の計算式で求めた金額となります。
・その人の相続税額 × 譲渡する財産の相続税の課税価格(評価額) ÷ その人の相続税の課税対象となる金額= 取得費に加算する相続税
実際に下記の事例をもとに説明します。
・相続税の課税対象金額(その人が相続する財産の総額):5,000万円
・譲渡する不動産の相続税評価額:3,000万円
・相続税:385万円
これを上の式に当てはめると、次の通りとなります。
【 385万円 × 3,000万円 ÷ 5,000万円 = 231万円 】
この231万円を譲渡所得を計算する際の式の取得費に加算することができます。
譲渡所得の計算式:財産の売却金額(収入金額)− ( 取得費 + 相続税の取得費加算 + 譲渡費用)= 譲渡所得
上記の例において、実際に下記の条件で不動産を譲渡した場合の税金負担が軽減される金額を説明していきます。
・不動産の譲渡価額:4,000万円
・取得費:不明(譲渡価額の5%の金額を概算取得費とする)
・譲渡費用(仲介手数料・登記費用など):200万円
この場合の譲渡所得税を上の式に当てはめて求めると、
・譲渡所得:4,000万円 – (4,000万円 × 5% + 231万円 + 200万円 )= 3,369万円
・譲渡所得税:3,369万円 × 20.315% ≒ 約684万円(取得費加算の特例を適用しなかった場合:約731万円)
取得費加算の特例の適用がある場合とない場合では、税金負担が約47万円の違いが生じます。このように、特例を適用することによって手元に残る現金を増やすことができるため、相続財産を譲渡する場合には、取得費加算の特例の適用を検討すると良いでしょう。ただし、これから説明する「相続した空き家譲渡にかかる3,000万円の特別控除(空き家特例)」との併用はできないため注意が必要です。
特例を適用するためには、確定申告時に以下の書類を添付してください。
- 相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書
- 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)[土地・建物用]や株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書
参考:譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)[土地・建物用]や株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書
相続した空き家譲渡にかかる3,000万円の特別控除
相続した空き家譲渡にかかる3,000万円の特別控除(空き家特例)とは、相続または遺贈によって取得した居住用財産(空き家)を、被相続人の死後3年を経過する日が属する年の12月31日までに売却し、一定の要件を満たす場合に、空き家を売却した時の譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度です。
近年、空き家の発生が多発していることが問題視されているため、相続した空き家の売却を後押しすることで社会として資源を有効活用することを目的に設けられました。
空き家特例を適用するための要件は以下の通りです。
要件 | |
---|---|
適用期間 | ・譲渡した時期が相続開始日から3年を経過する日が属する年の12月31日までの間である (相続開始日が2023年6月の場合は2026年12月31日まで) ・制度の適用期間である令和9年(2027年)12月31日までの譲渡である |
家屋の要件 | ・相続開始の直前まで被相続人が一人で居住をしていた家屋である ・昭和56年(1981年)5月31日以前に建築された家屋である ・区分所有建築物(マンション等)以外の建物である ・相続発生時から譲渡時まで、事業、貸付、居住目的に使用されていない ・譲渡時に耐震基準を満たしている(譲渡までに耐震リフォーム可) |
譲渡条件等 | ・譲渡価額の合計が1億円以下である ・譲渡相手が親族以外の第三者である |
上記の要件を満たした場合に、空き家譲渡時の譲渡所得から3,000万円を控除できます。
なお、令和5年度の税制改正により、共同で取得した不動産を譲渡した場合、相続人が2人までは1人あたり3,000万円が控除されますが、3人以上の場合では1人あたり2,000万円の控除となります。
また、先述した取得費加算の特例とは併用ができないため注意してください。
マイホーム売却時の3,000万円の特別控除
マイホーム売却時の3,000万円の特別控除とは、相続時に限らず、個人が自己居住用財産を売却し一定の要件を満たした場合に、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度です。
相続時で適用されるケースとしては、元々被相続人と相続人が同居しており、不動産を相続(名義を変更)したタイミングで相続人が一人用の物件に転居する、他の人と違う物件で暮らすなどといった理由でマイホームを売却する場合が考えられます。
この特例を適用するための具体的な要件については下記の通りです。
- 現在居住している自宅である
- すでに転居している場合、転居後3年を経過した日が属する12月31日までの譲渡である
- 過去2年以内にマイホームの買換えやマイホームの交換の特例を受けていない
- 譲渡相手が親族や同族会社など特別な相手ではないこと
- 趣味・娯楽、保養のために所有している家屋でない(別荘など)
- 特例の適用を受けるためだけを目的として入居していない
この特例は取得費加算の特例との併用が認められているため、相続したマイホームを売却した場合には税負担を大幅に軽減することが可能です。
相続した不動産の売却までの流れ
具体的な方法を、6つのステップに分けて解説します。
被相続人の死亡と遺言書の有無
被相続人の死亡により、遺産の相続が開始されます。まずは死亡届を役所に提出し、死亡診断書を取得してください。
あわせて、被相続人が遺言書を残しているかどうかを確認しましょう。遺言書がある場合は、書類に書いてある内容にしたがって相続を行います。
相続人の確認
被相続人の死亡と遺言書の有無を確認したら、相続人の人数を確認しましょう。法定相続人は、一般的に被相続人の配偶者や兄弟姉妹、子どもなどです。被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を手元に用意して、相続人の人数を確認してください。
遺産分割協議
相続人の人数を確認できたら、遺産分割協議を行いましょう。遺産分割協議とは、相続人全員で遺産の分割方法や金額を話しあうことです。被相続人の遺書が見つからない場合は遺産分割協議を行い、それぞれの相続額を決定して遺産分割協議書を作成してください。
相続登記
遺産分割協議書を作成したら、不動産の相続登記を行います。必要な書類は、以下のとおりです。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
- 相続人の戸籍謄本
- 遺産分割協議書
- 不動産を取得する相続人の住民票・戸籍の附票
- 相続人全員の印鑑登録証明書
- 所有権移転の登記申請書
- 固定資産評価証明書
- 相続関係説明図
相続登記の申請は、法務局の窓口で行ってください。
相続不動産の売却
相続登記の申請が完了したら、不動産会社に依頼して相続した不動産を売却しましょう。売却までの流れは不動産会社ごとに異なるため、事前にWebサイトなどで確認してください。
確定申告
すべての手続きが終わったら、確定申告を行いましょう。不動産の売却価格から取得価格と譲渡費用を差し引いた金額が、所得となります。具体的な確定申告の手順や必要書類は、以下の記事を参考にしてください。
不動産売却時の確定申告を徹底解説!申請の手順から時期・必要書類まで!
この記事では、不動産売却をしたときに確定申告が必要かどうかを解説しました。確定申告の手順や事前に用意する書類、不動産売却時に受けられる譲渡所得の特例も紹介しています。不動産売却をした方は、ぜひ最後まで記事を読み、確定申告の準備をしてください。
相続した不動産を売却する際の注意点
不動産の売却に関する注意点を3つ解説します。
複数の不動産会社に依頼する
売却価格の相場を理解するために、複数の不動産会社へ見積もりを依頼しましょう。複数の不動産会社に依頼するメリットは、以下の3つです。
- 適正価格を把握できる
- 不動産会社の信頼性を確認できる
- 複数の見積もりを取り価格交渉ができる
有利な条件で不動産を売却するために、複数の不動産会社へ見積もりを依頼すると良いでしょう。
控除の特例を利用する場合は3年を目安にする
相続した不動産は、売却のタイミングで支払う税金が異なります。特に、相続財産の取得費加算の特例を活用する場合は、不動産の売却を被相続人が亡くなってから3年10ヶ月以内に行いましょう。
不動産の売却を先延ばしにすると特例を使えなくなるため、土地や建物を手放す可能性のある方は3年を目安に判断してください。
取得費・所有期間は被相続人の購入時の情報を引き継ぐ
相続した不動産の取得費は、被相続人の購入費を引き継ぎます。購入時の費用がわからないと税金を多く支払う可能性もあるため、契約書や領収書などは大切に保管してください。
例えば、3,000万円で親が購入した不動産を8,000万円で売却した場合、差額5,000万円が譲渡所得となります。一方、不動産の購入価格が不明の場合は売却価格の5%が取得費(400万円)となるため、譲渡所得の金額は多額となりやすいです。
また、譲渡所得税は、不動産の所有期間が5年を超えるかどうかで税率が変わります。具体的には、5年以内の所有の場合は39.63%(所得税:30.63%、住民税:9%)、所有期間が5年を超える場合には20.315%(所得税:15.315%、住民税:5%)の税率となります。
相続した不動産を売却する場合には、相続した時点からの所有期間ではなく、被相続人が取得した日からの保有期間に応じて所得税を計算します。
そのため、被相続人が対象の不動産を取得した時期から5年が経過しているかを目安に売却を検討すると良いでしょう。
相続した不動産の売却で悩んでいる方は専門家へ
この記事では、親から相続した不動産を売却するメリットや流れを解説しました。不動産の売却では取り扱う金額が大きくなるため、適切な節税対策を行うと納税額を減らせる可能性があります。
とはいえ、節税に繫がる特例の活用方法や不動産の時価評価には、専門知識が必要です。不動産の売却が不安な方は、専門家に依頼してアドバイスをもらってください。
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