相続税の寄付金控除について解説!控除を受けるメリットや控除額の計算方法とは?
相続税の寄付金控除とは、相続財産から一定の要件を満たす寄付をした場合に、対象の財産や金銭は相続税の対象としない特例の通称です。相続税だけでなく所得税や住民税の軽減効果も期待できます。今回は相続税の寄付金控除について詳しく解説します。
相続税の寄付金控除とは
相続税の寄付金控除とは、相続や遺贈によって取得した財産を一定の要件を満たす寄付のために支出した場合、対象の財産や金銭は相続税の対象としない特例の通称です。相続税の課税対象となる遺産総額から寄付した財産分を差し引くことができるため、相続税の節税効果が期待できます。
相続税の寄付金控除の適用条件
相続税の寄付金控除を適用するための条件として以下の3つが挙げられます。
相続税の申告期限までに寄付する
1つ目の条件は、相続税の申告期限までに寄付をすることです。相続税の申告・納税期限は被相続人が亡くなった日の翌日から10ヶ月以内です。
なお、相続税の寄付金控除を受けるには、申告書の提出時に以下の2点を添付する必要があります。
- 相続税申告書の第14表:寄付または支出した財産の明細書
- 寄付先である国や地方公共団体、特定の公益法人の発行した明細書
必要な書類の具体例は適用を受ける特例の種類によって異なるため、相続税の寄付金控除を適用する際は必ず国税庁公式サイトをご確認ください。
参考:国税庁公式サイト「No.4141 相続財産を公益法人などに寄附したとき」
認証されている団体へ寄付する
2つ目の条件は、寄付金控除の適用対象として認証されている団体への寄付であることです。寄付金控除の対象として認められている団体の具体例を紹介します。
- 国
- 地方公共団体
- 特定の公益法人:具体例として、独立行政法人・国立大学法人および大学共同利用機関法人・公益社団法人および公益財団法人等が挙げられます。明確な範囲は国税庁公式サイトをご確認ください
- 認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)
参考:国税庁公式サイト「No.4141 相続財産を公益法人などに寄附したとき」
相続で取得した財産をそのままのかたちで贈与する
3つ目の条件は、相続で取得した財産をそのままのかたちで贈与することです。
例えば、建物等の不動産は不動産のまま、有価証券は有価証券のまま寄付する必要があります。相続財産を売却して現金化し、その現金を寄付した場合は控除対象外となるため注意が必要です。
相続時の寄付における3つのメリット
相続財産からの寄付のメリットは相続税の負担を軽減するだけではなく、所得税や住民税の負担も軽減させることができます。
以下では、相続時の寄付における3つのメリットを詳しく説明します。
相続税の負担が軽減される
相続税の寄付金控除の大きなメリットは、寄付した財産分が相続税が非課税になる点です。課税対象となる遺産総額が減るため、その分節税効果を得られます。
相続財産の寄付によって課税価格の合計額が基礎控除額以下になった場合、相続税は0円となります。
※相続税の基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
通常は課税価格の合計額が基礎控除額以下の場合、相続税の申告は必要ありません。ただし、寄付金控除の適用を受けるには相続税申告が必須となるため、寄付によって税額が0になったとしても相続税の申告を行う必要があります。
相続税には他にも申告が必須要件となる制度が複数存在するため、控除制度や特例の適用を受ける際は注意しましょう。
所得税・住民税も軽減可能
相続財産の寄付は相続税だけでなく、所得税・住民税の負担の軽減にもつながります。ただし、所得税・住民税の寄附金控除を受けるには以下の要件を満たす必要があります。
- 各種税金の寄附金控除の対象となる寄附を行う
- 所得税の確定申告において寄附金控除の手続きをする
なお、所得税・住民税の節税効果を得られるのは寄付をした相続人のみです。また、所得税等の寄附金控除では、計算に含められる金額に上限がある点にご注意ください。
ふるさと納税と合わせて節税も可能
相続財産を用いてふるさと納税を行えば、相続税の寄附金控除とふるさと納税の両方による節税効果を得られます。
なお、相続財産でふるさと納税をする場合、ふるさと納税の寄付金額を全額控除できるわけではありません。ふるさと納税の場合、相続税の寄付金控除の対象になる額は「ふるさと納税による寄付額×相続税率」です。
例えば、相続税率が15%、ふるさと納税による寄付額が50万円の場合、非課税となるのは50万円×15%=7.5万円となります。
相続税の寄付金控除を適用する際の注意点
相続税の寄付金控除の注意点を3つ紹介します。
遺言での寄付は対象に入らない
寄付金控除の対象になるのは、相続人による寄付分のみです。遺言での寄付は「被相続人による寄付」とみなされるため、寄付金控除の対象にはなりません。
例えば、亡くなった人が「財産のうち1,000万円を国に寄付する」と記載された遺言書を作成し、その記載内容に沿って相続が行われた場合には、亡くなった人(被相続人)の意思による寄付とみなされ、非課税の特例の対象外となります。
そのため、相続税の寄付金控除を受けるには、相続人が相続した財産から寄付しなければなりません。
不動産の寄付は課税されるリスクがある
不動産の寄付は「みなし譲渡」に該当しやすく、寄付をした側である相続人に所得税や消費税が課税されるリスクがあります。
みなし譲渡とは法人に対する無償もしくは低額での資産の贈与が譲渡とみなされてしまうことです。不動産の評価額が取得価額と比べて値上がりしている場合、個人が法人に不動産を無償で贈与したり、明らかに低額で譲渡したりすると、本来であれば時価で譲渡され、得られる売却益に対して発生する所得税を回避することができます。
このような、租税回避行為を防止するためにも「みなし譲渡」という規定が設けられています。
そのため、寄付時点の不動産の評価額が取得価額よりも値上がりしている場合には注意が必要です。
みなし譲渡に該当するか否かの判断には専門知識が必要です。法人に対して不動産の寄付を行う場合、みなし譲渡に該当するリスクがないか専門家に確認するのが良いでしょう。
相続税の節税効果は大きくない
実際のところ、寄付金控除による相続税の節税効果はあまり大きくありません。
相続税の寄付金控除は、相続財産から一定の要件を満たす寄付をした場合に、寄付した財産分は課税対象外とする制度です。税額を減らすというより、得られる財産そのものを減らす仕組みとなります。
寄付金控除による大きな節税効果を得るには手放す財産の額も増やす必要があり、その結果、手元に残る財産が少なくなってしまっては節税する意味がありません。
寄付による節税効果は副次的なものであり、効率的な節税対策には適さない制度と考えるのが良いでしょう。
相続税を減らす寄付金控除額の計算方法
相続税の寄付金控除では、寄付した財産の額をそのまま課税価格から差し引く仕組みです。控除額=寄付した財産の額となり、控除額の算出に特別な計算は必要ありません。
相続税の寄付金控除の計算
前述した通り、相続税の寄付金控除では寄付した財産の額をそのまま課税価格から差し引きます。具体的な計算の流れについて例を用いながら解説します。
今回用いる例は以下の通りです。
- 法定相続人:配偶者と子供1人
- 各人の課税価格(控除適用前):配偶者5,000万円、子供3,000万円
- 相続財産から行った寄付の額:配偶者500万円、子供0円
計算の流れは以下の通りです。
1.各人の課税価格から、相続財産から行った寄付の額を差し引く
配偶者:5,000万円-500万円=4,500万円 子供:3,000万円-0円=3,000万円
2.1で計算した金額を合計し、課税価格の合計額を算出する
4,500万円+3,000万円=7,500万円
3.課税価格の合計額から基礎控除額を差し引いて課税遺産総額を計算する
7,500万円-(3,000万円+600万円×2人)=3,300万円
以降の流れは通常の相続税の計算時と同じです。寄付金控除の額を用いるのは最初の課税価格を計算する工程のみであり、以降の計算には影響しません。
相続税の計算方法の詳細は以下の記事をご確認ください。
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所得税・住民税の寄付金控除の計算
寄付金控除によって適用される控除額の計算方法は、税金の種類によって異なります。
相続税の寄付金控除では、寄付した財産の価額をそのまま課税価格の合計から差し引く仕組みです。したがって、控除額を個別に計算する必要はありません。
所得税の場合、以下のいずれか大きい方の金額から2,000円を差し引いた額が控除額となります。
- その年に支出した特定寄附金の合計額
- その年の総所得金額等の40%相当額
住民税の場合、基本控除額と特別控除額の合計が控除額となります。それぞれの求め方は以下の通りです。
- 基本控除額:(寄附金-2,000円)×10% ※寄附金は総所得金額の30%相当額が上限
- 特別控除額:(寄附金-2,000円)×(90%-寄付者に適用される所得税の限界税率0%~45%) ※特別控除額はふるさと納税のみに適用されます
なお、寄付した団体によっては控除額の計算方法が異なるケースがあります。
相続税の寄付金控除にお困りなら専門家へ
相続税の寄付金控除は、相続財産から寄付を行った場合に、寄付した財産の額は相続税の課税対象にしない特例の通称です。相続財産からの寄付は相続税だけでなく、所得税や住民税の軽減効果もあります。
相続税の寄付金控除には複数の要件が定められており、控除を受けるには制度について深い理解が必要です。また、節税効果が大きくない・財産の種類によってはみなし譲渡に該当するリスクがある等の注意点も押さえる必要があります。
相続税の寄付金控除についてお困りであれば、専門家である税理士へご相談ください。
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