相続税から葬儀費用の控除は可能?控除できる範囲や注意すべきポイントを解説!
相続税の計算時には、遺産総額から葬儀費用を差し引くことができます。ただし、葬儀関連の費用を無条件に控除できるわけではなく、一定の要件が設けられている点に注意が必要です。今回は相続税における葬儀費用の控除について詳しく解説します。
相続税は、遺産総額から相続人が負担した葬儀費用を差し引いて計算できます。相続税の負担額を最小限に抑えるには、葬儀費用を漏れなく計上することが大切です。
ただし、葬儀に関連する費用の全額を無条件に控除できるわけではありません。遺産総額から差し引ける葬儀費用は範囲が指定されており、葬儀関連でも控除できない支出があります。また、葬儀費用を控除するには相続税申告時に一定の手続きが必要な点にも注意しましょう。
今回は相続税における葬儀費用の控除について詳しく解説します。
相続税から葬儀費用の控除ができるもの・できないもの
相続税の計算時に、相続財産から葬儀費用として控除できるもの、できないものについてそれぞれの具体例を紹介します。
控除ができるもの
相続財産から葬儀費用として控除できる支出の例は以下の通りです。
- 医師による死亡診断書の発行費用 ※火葬の許可を得るには死亡診断書が必要なため、死亡診断書を取得するための費用は葬儀費用に含められます
- 遺体や遺骨の運搬費用
- 遺体安置費用
- 葬儀場までの交通費
- 通夜や告別式にかかった費用
- 火葬料、埋葬料
- 納骨費用
- 葬儀のお手伝いの方へお渡しする心付けやお車代等
- 通夜や告別式での飲食代 ※葬儀会社が手配した食事のほか、コンビニやスーパー等で購入したものも含められます
- お布施、読経料、戒名料 ※通夜や告別式で僧侶にお渡しするお金は原則としてすべて葬儀費用の対象です
- 会葬御礼 ※参列者全員にお渡しする返礼品のことです
なお、お布施や戒名料等の宗教費用は領収書がないケースが多いです。また、心付けやお車代等のお礼としてお渡しするお金についても、相手方から受け取る領収書はありません。
領収書がない費用は支払先や支払額をメモに残す必要があります。
控除ができないもの
相続税の計算時に控除できない費用の例は以下の通りです。
- 香典返し
- 生花やお供えの購入費用
- 位牌、仏壇、墓地、墓石等の購入費用 ※葬儀後に支出する費用は相続財産から控除できる葬儀費用に含まれません
- 初七日や四十九日法要などの法事にかかった費用
- 医学上または裁判上の特別の処置にかかった費用 ※具体例として、死体の解剖費用が挙げられます
なお、前項で紹介したように会葬御礼は葬儀費用として控除できますが、香典返しは控除の対象外です。会葬御礼は参列者全員に渡すお礼であり、葬儀関連の費用の1つとみなされます。一方、香典返しは遺族が受け取る香典に対するお返しであり、会葬御礼とは異なる性質を持つものです。相続税の計算を正しく行うため、会葬御礼と香典返しの違いを明確に押さえる必要があります。
相続税から葬儀費用を控除したときの計算方法
この章では、相続税の計算時に相続財産から葬儀費用を控除する場合の計算方法について、具体例を用いながら詳しく解説します。
相続税の基礎控除の計算
課税対象となる遺産総額の計算をする前に、まずは相続税の基礎控除の計算をするのが効率的です。
相続税の基礎控除額の計算式は以下の通りです。
相続税の基礎控除額=3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)
たとえば法定相続人が配偶者と子供2人の場合、基礎控除額は3,000万円 +(600万円 × 3人)=4,800万円となります。課税遺産総額が4,800万円以下であれば、相続税は発生せず、申告の必要もありません。
相続税の基礎控除については以下の記事で詳しく解説しておりますので、ぜひこちらもご覧ください。
相続税はいくらからかかる?計算方法や特例・控除についてわかりやすく解説!
相続税がいくらかかるかは、法定相続人の数によって変わる基礎控除額によっても 異なります。この記事では、相続税はいくらからかかるのか、基礎控除額を超えても相続税が発生しない場合と相続税の計算方法、相続税の申告が必要なケースなどを紹介していきます。
葬儀費用を控除した課税遺産総額の計算
続いて相続税の課税対象となる課税遺産総額を計算します。
前提として、相続税の課税価格を計算する流れは以下の通りです。
1.各人の純資産価額を計算する
相続等により取得した財産の価額+みなし相続等により取得した財産の価額-非課税財産の価額+相続時精算課税適用財産の価額-債務および葬儀費用=純資産価額
2.各人の課税価格を計算する
純資産価額+相続税の課税対象となる暦年課税に係る贈与財産の価額=各人の課税価格(千円未満切り捨て)
3.相続税の計算基礎となる正味の遺産額を計算する
各人の課税価格の合計=課税価格の合計(正味の遺産額)
今回は法定相続人が配偶者と子供1人で、計算に使う金額が以下の場合を例にします。
- 配偶者:相続等により取得した財産1億円、みなし相続等により取得した財産1,000万円、非課税財産1,000万円、相続時精算課税適用財産0円、債務および葬儀費用の負担額500万円、相続税の課税対象となる贈与財産300万円
- 子供:相続等により取得した財産3,000万円、みなし相続等により取得した財産0円、非課税財産500万円、相続時精算課税適用財産0円、債務および葬儀費用の負担額0円、相続税の課税対象となる贈与財産200万円
各人の純資産総額および課税価格は以下の通りです。
【配偶者】
純資産総額=1億円+1,000万円-1,000万円+0円-500万円(葬儀費用)=9,500万円
課税価額=9,500万円+300万円=9,800万円
【子供】
純資産総額=3,000万円+0円-500万円+0円+0円=2,500万円
課税価額=2,500万円+200万円=2,700万円
したがって、課税価格の合計は9,800万円+2,700万円=1億2,500万円です。
課税遺産総額は、課税価格の合計から相続税の基礎控除を差し引いて計算します。今回は法定相続人2人で基礎控除額は4,200万円のため、課税遺産総額の計算式は以下の通りです。
課税遺産総額=1億2,500万円-4,200万円=8,300万円
相続税の総額の計算
課税遺産総額がわかったら、続いては相続税の総額の計算をします。
相続税の総額は以下の流れで計算します。
1.遺産総額に法定相続分を乗じて、各人の取得金額を計算する
2.法定相続分に応ずる取得金額に相続税の税率を乗じて、相続税の総額の基になる金額を計算する
各法定相続人の法定相続分に応ずる取得金額 × 相続税の税率 = 相続人ごとの算出税額
3.相続人ごとの算出税額を合計して相続税の総額を計算する
法定相続人の構成別の法定相続分は以下の通りです。
- 配偶者と子供(直系卑属):配偶者 2分の1、子供 2分の1
- 配偶者と両親(直系尊属):配偶者 3分の2、両親 3分の1
- 配偶者と兄弟姉妹または甥姪:配偶者 4分の3、兄弟姉妹 4分の1
今回の例では法定相続人が配偶者と子供1人のため、法定相続分は2分の1ずつとなります。したがって、法定相続人の法定相続分に応じた取得金額はどちらも8,300万円 ×1/2 =4,150万円です。
相続税の税率は法定相続分に応ずる取得金額によって異なります。3,000万円超から5,000万円以下の場合、税率が20%、控除額が200万円です。したがって、相続人ごとの算出税額は以下の通りです。
配偶者:4,150万円 × 20% - 200万円=630万円
子供:4,150万円 × 20% - 200万円=630万円
※今回の例では各人の法定相続分が同じのため税額も同額です。
相続税の総額は、630万円+630万円=1,260万円となります。
相続人数分の相続税の計算
相続税の総額の計算時に用いた相続人ごとの算出税額は、あくまでも法定相続分に応じて分配したと仮定した場合の金額です。実際の各相続人の税額は、相続税の総額を実際の相続割合で按分した金額となります。
計算式は以下の通りです。
各相続人の税額=相続税の総額 × 各人の課税価格 ÷ 課税価格の合計額
したがって、各相続人の相続税額は以下のようになります。
【配偶者】
相続税総額1,260万円 × 課税価格 9,800万円 ÷ 課税価格の合計額1億2,500万円=987万8,400円(配偶者の税額軽減が適用できるため、実際には0円)
【子供】
相続税総額1,260万円 × 課税価格 2,700万円 ÷ 課税価格の合計額1億2,500万円=272万1,600円
なお、各相続人の相続税額がそのまま納付税額になるわけではありません。上記の計算によって求めた相続税の額から各種控除を差し引いた額が最終的な納付税額になります。
葬儀費用の負担については、葬儀と葬儀後の法事の代表者となる喪主が、葬儀費用を負担したりお布施を行ったりする施主を兼任することが一般的とされています。
しかし、葬儀費用が控除できることや配偶者は税額軽減の特例を適用できることを踏まえると、費用の負担者を子供にし、その分子供への相続分を増やすことによって、二次相続を見据えた相続税の節税が期待できます。
二次相続については以下の記事で詳しく説明していますので、あわせてご確認ください。
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相続税の葬儀費用控除の申告方法
この章では、相続税の葬儀費用を控除するための申告方法について解説します。
申告書第13表「債務及び葬式費用の明細」に記載
葬儀費用を控除するには、相続税申告書第13表「債務及び葬式費用の明細」に、控除する葬儀費用について記載が必要です。「2 葬式費用の明細」欄に発生した費用の内訳を、「3 債務及び葬式費用の合計額」に葬儀費用の合計額を記載します。
なお、相続税の申告書は国税庁のホームページまたは税務署で入手可能です。
領収書の添付
葬儀費用を控除するには、申告書第13表の提出だけでなく、葬儀費用の領収書の添付も必要です。領収書がない支出の場合、支払額や支払先を記載したメモで代用できます。
相続税から葬儀費用の控除をするために注意すべきポイント
最後に、相続税の計算時に葬儀費用の控除をするために注意すべきポイントを2つ紹介します。
領収書を必ず残す
葬儀費用の控除を受けられるよう、葬儀費用に関する領収書を必ず残しましょう。領収書がない支出については、支払先や支払額について記載したメモを保管する必要があります。
葬儀費用の控除を受ける場合、相続税の申告書に領収書の添付が必要です。領収書がない葬儀費用については控除が認められない恐れが大きいためご注意ください。
葬儀費用が控除対象とならない場合がある
以下の条件に該当する人が支出した葬儀費用は、相続税の計算時に控除できません。
- 相続等により財産を取得した時点で日本国外に居住しており、取得した財産のうち日本国内にある財産だけが相続税の課税対象となる人
- 相続人や包括受遺者ではない人 ※主に、遺言により特定の財産を与えられた人が該当します
相続税の負担を抑えるという意味では、上記に当てはまらない人が葬儀費用を負担するのが良いでしょう。
相続税からの葬儀費用の控除に関する不明点は税理士に相談しよう
相続税の計算時は、相続税の課税価格から葬儀費用を控除できます。ただし、葬儀に関連する費用のすべてが控除対象になるわけではなく、遺産総額から差し引ける葬儀費用には一定のルールが設けられています。相続税額を正しく計算するには、控除対象になる葬儀費用について十分な理解が必要です。
また、葬儀費用の控除を受けるには、葬儀費用に関する明細の提出や領収書の添付も必要となります。必要な作業が多いため、相続税の申告を進める上で疑問や不安に思う場面も起こり得るでしょう。
相続税の葬儀費用の控除について気になる事項があれば、専門家である税理士へご相談ください。
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