事業を行う際に利益が出たのであれば、納税しなければならない可能性があるため、確定申告を行う必要があります。しかしながら、赤字であれば所得税を納税する必要がありません。そのため、赤字の場合は確定申告をしなくても良いと判断する人がいますが、確定申告を行っておいたほうが良いケースもあります。
確定申告は作業が大変なので赤字であれば申告しないでおこうと考えてもおかしくありませんが、確定申告をしなければ次年度以降に後悔する可能性が高いです。やっておけば良かったと後悔しないためにも、赤字の際に確定申告を行うことのメリットや注意点、書類の書き方などについて正しく理解しておくことが大切なので、紹介する内容を参考にしてみると良いでしょう。
赤字は確定申告すべき?
赤字で確定申告するメリット
確定申告とは1年間の所得に関する計算を行ってから必要内容を記載した書類を提出することであり、納税を行うために実施するものです。これが義務づけられているのは所得税が発生する人だけなので、赤字であれば確定申告を行う義務はありません。けれども、確定申告をしっかりと行っておくことにはメリットもあります。反対に、申告しておかなければ、赤字の場合に受けられる恩恵を受けることができなくなったり、種々の手続きが複雑化したりするというデメリットがあることも知っておくべきです。税務署などで懇切丁寧に、こういったメリットデメリットを教えてもらえるわけではありません。メリットや申告しないデメリットについて、自分自身で理解を深めておくことが大切だと知っておきましょう。
純損失の繰越控除
赤字でも確定申告を行うことのメリットには、純損失の繰越控除が適用されるという制度があります。純損失とは事業所得などの所得の赤字と黒字を相殺しても残る赤字金額であり、これを翌年以降の黒字と3年にわたって相殺することが可能です。きちんと確定申告を実施しておけば、翌年以降の3年間は黒字が出ても赤字分を相殺することができ、税負担を軽くすることができます。
個人事業主の場合は利益がそのまま生活費になるはずなので、税負担が軽くなることは生活費確保にも繋がる嬉しいことだと言えるでしょう。赤字の年に確定申告をしておかなければ純損失の繰越控除を適用することができないので、その大きなメリットを失わないためにも申告しておくべきです。
所得に関する各種証明書の発行
税務署や自治体で所得証明や非課税証明などの証明書を発行してもらうことができます。
こういった証明書は融資を受ける際や補助金の申請時に必要となるものであり、事業を行う上で許可を受けるために求められることもあるでしょう。様々な手続きで必要となりますが、個人事業主の場合はこれらの証明書が確定申告書の数字をもとに作成されます。提出していれば簡単に発行してもらえるというメリットが感じられるはずです。
反対に、提出していなければ証明書を簡単に発行することができません。赤字で確定申告義務がなければ確定申告は不要と考えるかもしれませんが、それ以降の手続きの際などに不便さを感じたり手続きを進められなかったりする恐れがあるので要注意だと言えます。
住民税の確定申告書の提出が不要
住民税の確定申告書の提出が不要であることも、赤字で確定申告を行っておくことのメリットです。所得税の確定申告は住民税の確定申告も兼ねているので、これを提出しておけば住民税の計算も行われることになります。税務署と自治体で情報をやり取りしてもらうことができるため、自分で何か手続きを行うことがなくても、自動的に計算を行ってもらうことができるので便利です。
確定申告をしていなければ、自治体は赤字かどうか知ることができません。不明な人に連絡して所得内容の確認を行う作業が行われるため、自治体から確認の連絡が来ることになるはずです。双方にとって手間が発生するので、税務署に確定申告書を提出しておくことがおすすめだと言えます。
赤字の確定申告は青色申告と白色申告で扱いが異なる
青色申告の場合
赤字で確定申告をしておくことはとても大切ですが、青色申告と白色申告では純損失の繰越控除の扱いが異なることを理解しておくべきです。青色申告の場合は赤字の原因が限定されておらず、赤字であれば繰り越すことができます。ただし、純損失の繰越控除には適用を受けるための条件が2つ設けられているので理解しておきましょう。
赤字が発生した年に確定申告書(青色申告書)を提出していること、その後連続して確定申告書を提出していることの2つが条件となっています。黒字と赤字を繰り返すと黒字が消えて納税する必要がなくなるケースもありますが、その場合でも提出しておかないと原則純損失の繰越控除を適用することができません。
そして、青色申告でなければ意味がない点にも要注意です。利益が出なければ簡易的な白色申告でも良いだろうと思うかもしれませんが、あらゆる赤字を繰り越したい、青色申告で提出することに決めているのであればこちらで実施するようにしてください。
白色申告の場合
白色申告の場合は、繰り越せる損失の発生原因が限定されているので気をつけておきましょう。変動所得の計算上で生じたものと災害により生じたもののみに限定されており、それ以外のものは繰越すことができないです。ちなみに、漁業の一部や作曲などを行うときに発生する所得を変動所得と言います。かなり限定的な条件となっているので、基本的には赤字を繰り越すことができないと考えて良いです。
感染症蔓延時の損失は、材料の廃棄損は災害による損失とみなされますが、客数の減少が原因の赤字は災害を理由とした損失に含まれないことも理解しておく必要があります。青色申告よりも適用できるケースが少ないので、注意が必要だと言えるでしょう。
赤字の確定申告:損失申告に必要な書類と書き方
損失申告に必要な書類とは?
- 確定申告書B第一表
- 確定申告書B第二表
- 確定申告書第四表
- 青色申告決算書(青色申告者のみ)
- 収支内訳書(白色申告者のみ)
- 所得控除を受ける際に必要となる書類
赤字で確定申告を行っておくと、純損失の繰越控除の適用や、純損失の繰戻還付を受けることができます。税金の還付を受けるためには、税務署の厳しいチェックをクリアしなければなりません。正当に申告し、必要な書類をしっかりと提出しておけば問題ありませんが、提出に不備があれば調査が行われたり還付を受けられなくなったりするので気をつけてください。
全ての書類に正しく記入を行い、確実に提出することが大切だと言えます。
損失申告に必要な書類の書き方とは?
損益通算用の用紙(第四表2)
損益通算用の用紙には、申告書B第一表から算出した事業所得の損失金額を記入することになります。損失額又は所得金額内の経常所得に記入しますが、その他の所得がある場合は所得の種類欄と損益の通算欄に記入を行う必要があります。
繰越控除用の用紙(第四表4)
繰越控除用の用紙には、第四表の経常所得の金額を、翌年以降に繰り越す損失額内の青色申告者の損失の金額欄に転記します。繰越損失を差し引く計算欄は、翌年以降に赤字の繰越金額を黒字の金額と相殺するために記入するものであることを知っておきましょう。
副業が赤字の場合の確定申告
近頃は副業をしている人も増えており、本業以外で赤字が出た場合の確定申告が気になる人も多いはずです。副業が赤字になった場合も確定申告ができますが、事業所得としているか雑所得としているかで違ってきます。前者の場合は給与所得と損益通算ができるので確定申告をしておいたほうが良いですが、後者の場合は給与所得との損益通算や純損失の繰越控除を適用させることができません。
その他に問題が生じることもないので、雑所得で源泉徴収されている金額があって所得税の還付を受ける場合を除くと、わざわざ赤字の場合に確定申告を行う必要はないと言えます。事業所得とみなしている場合は、所得税の還付を受けるためにも、確定申告を行うことを検討してみることがおすすめです。
まとめ
赤字が出た場合に確定申告を行わなければならないという決まりはありませんが、申告することのメリットが多いこと、申告していなければ証明書発行や自治体が住民税を計算する際に手間がかかる可能性があります。黒字でなければ確定申告を行わなくて良いという考えを持つのではなく、事業を行っているのであれば赤字でも黒字でもきちんと確定申告を行っておくことがおすすめだと言えるでしょう。
毎年確定申告を行っていれば、赤字があったときでも純損失の繰越控除の適用や所得税の還付などの恩恵が受けられるようになります。後からメリットに気づいて行っておくべきだと思っても遅い可能性もあるので、赤字でも確定申告をすることの大切さや提出書類に関する知識を深めておくと良いでしょう。
【監修者】代官山税理士法人 / 代表 大勝 健司
会計士試験合格後、監査法人に入社。幅広い事業の監査業務に従事。 その後、売上高数千億の一部上場企業(小売業)にて、企業内会計士として経理業務に従事。税理士として、決算書の作成、法人税申告書、相続税の相談から申告実務全般にも携わる。また社会保険労務士として事業会社において各保険の入退社手続き、役員及び従業員向けの退職金制度導入、就業規則の作成等に至るまでの労務を経験。社会保険の知識にも明るい。ヒトとカネの融合的視点からのアドバイスを可能とする。
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