長年勤めた会社を退職することになった場合、勤めていた会社が退職金制度を持つ企業であれば勤続年数や会社規定において一定の退職金を受け取ることができます。退職金は退職所得として、税金が課せられることになります。本記事では、退職金の源泉所得税の計算方法や退職の際に必要となる書類の退職所得の受給に関する申請書などをご紹介します。
退職金の税金の計算方法は?
所得税の計算
退職金は収入金額から退職所得控除額を引いて2分の1にすることで退職所得の金額を算出します。
また、勤務年数に応じて退職所得控除額が変わりますので、税金の計算を行う際には勤続年数に特に着目しておきましょう。
退職所得控除額の計算
退職所得控除額は勤務年数が20年を超える場合と20年以下では異なります。例えば、勤続年数が20年以下では40万円×勤続年数の計算式で求めることになり、この金額が80万円に満たないときには一律80万円の控除額が適用されます。一方、勤続年数が20年を超えている場合は、800万円+70万円×(勤続年数-20年)になります。
勤続年数が10年の場合は、40万円×10年=400万円が退職所得控除額です。20年を超えている人などは年収が徐々に上昇して退職金の金額も高額になるかと思われますが、このとき20年以下の計算式と同じもので計算した場合には控除可能な金額が少なくなるため、退職所得の税金負担を軽減するため800万円+70万円の控除額になっています。勤続年数が30年の場合には、控除額は800万円+70万円×(30年-20年)になるので、この計算式から1,500万円が退職所得控除額であることがわかります。また、勤続年数は端数を切り上げる方法になるため、1年1日の勤務期間の場合でも1日は1年でカウントするため勤続年数は2年になることも覚えておきましょう。
退職金の税金の計算例
退職金が700万円、勤続年数13年6ヶ月の場合
例えば、退職金が700万円で勤続年数が13年6か月での税金の計算は次のとおりになります。勤続年数は切り上げになるため、この場合は14年で計算します。また、勤続年数が20年以下になるので退職所得控除額は20年以下の場合での計算式が適用され、40万円×14年=560万円が退職所得控除になります。
続いて、課税退職所得金額は(800万円-560万円)×1/2=120万円で、所得税額を計算するときには所得税率および控除額を国税庁の所得税の税額表から調べて計算式に当てはめます。税額表では課税退職所得金額が1,950,000円未満での所得税率は5%で控除率は0円になっていますので、120万円(課税退職所得金額)×5%(所得税率)-0円(控除額)=60,000円が所得税額です。
次に、所得税および復興特別所得税を求めることになりますが、これは所得税額+(基準所得税額×2.1%)の計算式で求めることができるので、この式にそれぞれの金額を当てはめると。6万円+(6万円×2.1%)=6万1,260円になり、この金額が所得税および復興特別所得税になります。勤続年数が、20年以下と20年を超える場合に退職所得控除額を求める計算式が異なることを把握しておけば簡単に計算することができます。
退職金が2600万円、勤続年数32年2ヶ月の場合
次に、退職金支給額が2,600万円で勤続年数が32年2か月の場合での退職金の税金計算例をご紹介します。この場合は、勤続年数が20年を超えているため退職所得控除額の計算式は、800万円+70万円×(勤続年数-20年)が適用されます。また、勤続年数は切り上げられるので年数32年2か月は33年で計算します。
退職所得控除は、800万円+70万円×33年-20年=1,710万円となり、退職所得金額は、退職金支給額2,600万円から退職所得控除額1,710万円を差し引いた金額に1/2を掛け合わせた445万円となります。
これらを所得税の計算式に当てはめると、445万円×20%-42万7,500円=47万2,212円の計算になり。所得税および復興特別所得税の合計額は、47万2,212円+47万2,212円×2.1%=48万2,128円となります。
退職所得の受給に関する申告書とは?
退職金の支払いのときに、退職所得の受給に関する申告書を勤務先に対して提出している場合は所得税額や復興特別所得税額などの税金の計算を勤務先が行ってくれます。そのため、退職金の支払いの際には退職所得の金額に応じた税金の金額が源泉徴収されているため、翌年に確定申告を行う必要はありません。
しかし、退職所得の受給に関する申告書を勤務先に提出していない場合は、退職金の支払金額の20.42%の所得税額および復興特別所得税額が源泉徴収されており、税金が余計に徴収されていることが多いことから確定申告が必要になってきます。なお、この申告書は勤務先から支給されるケースが多いのですが、国税庁のホームページからダウンロードすることも可能です。
退職金を受け取って確定申告が必要な場合は?
「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない場合
退職所得の計算方法は先ほど例を使いご紹介しましたが、会社で税金の計算を行っているのか否かで確定申告の必要性が出てきます。その目安となるのが退職所得の受給に関する申告書の提出の有無です。退職所得の受給に関する申告書は会社の経理や総務部などから用紙を受取、必要事項を記載して提出すれば会社側で税金の計算を行ってくれますが、この書類を提出していない場合には受け取った退職金には支払い金額の20.42%の所得税額と復興特別所得税額が源泉徴収される形になっているため余計に税金を納めている可能性が高いのです。
確定申告と聞くと、税金を納める目的で利用する制度などのイメージを持つ人も多いかと思われますが、ローンを組んでマイホーム購入したときや年間の医療費が10万円を超えたときなど、確定申告を利用することで税金の還付が見込めます。これと同じく、退職金を受け取った人の中で会社に対して退職金の受給に関する申告書の提出を行っていない場合は、確定申告を行うことで還付金を受け取ることができます。
退職金の受け取り方法は2種類ある
退職金を一時金で受け取る場合
退職金の受取方法の一つでもある一時金として一括受取した場合、税務上退職所得と呼ぶ所得区分として取り扱われます。
これは、通常の給与所得とは異なる税額計算になるのが特徴です。退職金の課税所得を計算する際にポイントになって来るのが退職所得控除です。
退職金が2,500万円で勤続年数が30年の場合、退職所得控除額は1,500万円となり、退職金からこの1,500万円を差し引くと残りは1,000万円となります。この1,000万円の2分の1の500万円が実際に所得税及び住民税の課税対象になる退職所得になるわけです。
退職金を年金払いで受け取る場合
もう一つの受取方法は年金払いによるやり方です。これは文字通り一括で受け取るのではなく年金払いで貰い雑所得で計算を行います。
雑所得の中には退職所得控除と呼ぶものはないのですが、公的年金控除といった形で年金の金額から公的年金控除額を引いて、雑所得の金額を求めます。
この年金額が控除額までに収まる場合には所得税や住民税などの税金が課税されないメリットを持ちます。なお、公的年金等控除には年金払いの退職金・企業年金・確定拠出年金などが対象で、生命保険などの個人年金は含まれないことも覚えておくと良いでしょう。
まとめ
退職金には、勤続年数が20年を境に控除額が変わること、勤続年数は切り上げが行われるため20年と1日の場合では21年の年数で計算を行うことになります。
退職所得の受給に関する申告書は退職の際に重要な書類で、これを会社に提出しているか否かで確定申告をすべきか否かが決まります。
この退職所得の受給に関する申告書は、会社で貰えるのが一般的ですが事前に準備をしたい人は国税庁のホームページからダウンロードして必要事項を記入の上会社に提出することも可能です。また、退職金は一時金といった形で退職時に全額受け取る方法と年金払いで受け取る2つの方法があり、年金払いの場合は毎年受け取った分を雑所得の所得区分で所得税の計算を行います。
【監修者】代官山税理士法人 / 代表 大勝 健司
会計士試験合格後、監査法人に入社。幅広い事業の監査業務に従事。 その後、売上高数千億の一部上場企業(小売業)にて、企業内会計士として経理業務に従事。税理士として、決算書の作成、法人税申告書、相続税の相談から申告実務全般にも携わる。また社会保険労務士として事業会社において各保険の入退社手続き、役員及び従業員向けの退職金制度導入、就業規則の作成等に至るまでの労務を経験。社会保険の知識にも明るい。ヒトとカネの融合的視点からのアドバイスを可能とする。
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